休日のきょうは、こんなおっさんにいつも付き合ってくれる若い後輩Eとともに、北九州市若松区にあるごんぞうラーメンへとやってまいりました。
 ごんぞうとは、明治から昭和にかけて日本一の石炭積出港だったここ若松で、石炭荷役に従事した港湾労働者たちの呼称。今でこそ寂しい街並みになっていますが、かつては炭鉱景気に沸いたそれはそれは華やかなところだったのです。



 お店は、若松のれん街という昭和の時代の残り香がプンプンする呑み屋さんが居並ぶビルの一角。昼でも薄暗いビル内に足を踏み入れると、「らーめん」と書かれた小さな提灯が優しい灯りをともしています。
 ほほう、ここがごんぞうラーメンか。
 実は今回、むちゃくちゃ緊張しています。お店に入るのも躊躇するほど。
 いや、なんで今回こちらへやってきたかというと、ひとつ目はまず単純にGoogleマップで見つけたラーメンのビジュアルがイニシエ豚骨*1系で実においしそうだったこと。

 ふたつ目は、実はこれが私にとってこれ以上ないほど重要なんですけど、80年代の日本のロックシーンを席巻した北九州出身のロックバンド、ザ・ルースターズの中期〜後期を支えたドラマーである灘友正幸さんが大将を務めるラーメン屋さんなのです。
 もうこれは、私にとって言葉にできないくらい感涙もの。
 なぜなら今を遡ること40年。自身もアマチュアバンドをやっていた10代の若い私が、あれほどレコードやカセットテープを聴きまくるほど大好きだったバンドのメンバーさんのお店にお邪魔し、なおかつその腕で作られたラーメンを食べられるのですから。まさかこんな日がやってこようとは。



 店外にあるメニューを見ながら、さぁ入店するかとしたところでいきなり引き戸が開き、中からなんと灘友さんご本人が登場! 
 あまりに突然すぎる遭遇に驚愕し、危うく脱糞寸前!
 いらっしゃいと言われ、あたふたとしながら入店します。
 着座したのち、平静を装いながら一応それっぽくメニューを眺め、私もEも豚骨ラーメンを、そして卵チャーハンをひとつ注文しシェアします。
 もちろん麺の硬さなんて聞かれません。さすがの一言。
 店内は、カウンターのみ5〜6席の小さな造り。
 壁にはザ・ルースターズのポスター。そして、同じく若松出身のシーナさんが活躍したシーナ&ロケッツのポスターなどなど。
 いま目の前では、あの灘友さんが私のラーメンを作ってくれています。
 ああ、いったい何という光景か。
 感涙にむせぶ私の眼前にラーメン到着。ほどなく卵チャーハンも。

 では、ありがたくラーメンからいただきます。
 具材はチャーシュー、キクラゲ、海苔、ネギ。
 あ、自分の舌に嘘はつけませんので、味に関しては補正なしに正直にいきますよ。
 まずはスープから。

 ズズズ、ズズ、ズの、ズズズのルースターズ。
 うまい。
 見た目のとおりのイニシエ系。
 予想よりほんの少しだけオイリーですが、これはうまい。
 最近はギトギトコテコテのスープばかりが幅をきかせ、この手のスープを出してくれるお店はホントに少ないのです。
 続けて麺。

 ズズル、ズルズル、ズ、ズズー。
 けっこう細麺です。
 これは私の好みよりも少し細い。もうちょい太ければ言うことなし。
 そして、卵チャーハン。

 パラリではなく、しっとりタイプ。
 卵の風味が効いた優しい味付けのチャーハン。ちなみに店を出たあと、Eがめちゃくちゃおいしかったと言ってました。
 ラーメンの味もそぞろにいつ切り出そうかとそわそわしていましたが、お勘定を済ませたあとに意を決して、「あの私、40年来のルースターズのファンです。写真を一緒にお願いできますでしょうか!」
 「えぇ、いいですよ(笑)」
 柔和な笑顔で快く応えてくださいました。


 うまいラーメンと言葉にできないくらいうれしい出会いにただただ感謝ばかり。
 あのころの10代の自分にそっと耳打ちしてやりたい。
 「いいか、よく聞けよ。40年も先の未来の話だ。信じられないかもしれないがお前、灘友さんが作ってくれるうまいラーメンを食える日がきっとくるぜ」
 ホントにごっつぁんでした。
The Roosterz  ニュールンベルグでささやいて
   (1984.7.15 赤坂ラフォーレミュージアムにて)